皆さん、こんにちは!
太陽グラントソントン・アドバイザーズ(GTA)パートナー 松下周平 です。
2008年に太陽監査法人の東京事務所へ入所し、2015年から2021年まで、太陽監査法人が提携しているグローバルファーム『Grant Thornton(GT)』のフィリピン拠点である『P&A Grant Thornton』に赴任していました。
コロナ禍の2020年に日本へ戻り、最後の1年間はリモートで駐在をしていました。
2021年からはGTAに転籍し、管理部門長として、太陽グループにおけるアドバイザリーファームの拡大に尽力しています。
今後の会計士の多様なキャリアを考えた時に、広く法人全体のことを大局的な視点から見て、人的資本が最も重要なこの業界において「太陽グループ内で働く皆が “より働きがいを感じながら” 働いてもらうためにはどうすればよいのか?」を一年中考えることは、多様化している会計士のキャリアの一つとしてなかなか面白いキャリアではないかと思ったのが、決断に至った理由の一つです。

さて、今回のブログでは、
私の現在のキャリアの中で最も大きな転機となった海外駐在経験について、お伝えしたいと思います。
最初にお話をさせて頂くと、海外駐在は本当にオススメです。少しでも海外駐在に興味がある方は、ぜひ前向きにチャレンジを考えてみてください!
海外駐在に出たきっかけ
今ではそんな話をしていますが、
当時の私が海外駐在に希望を出した際は、監査を丸5年やったタイミングで「自身の成長曲線が緩やかになってきているな」と感じていました。
飽き性も重なって「何か違う事をやりたい。監査プラスアルファのスキルが欲しい!」と感じていましたが、そのプラスアルファは「絶対に海外駐在だ!」と言うほどの想いではありませんでした。
そのようなことを考え出したタイミングで、当時の私が担当していた会社の前任主査が海外駐在から一時帰国し、現地での話を聞けたことや、リファーラルの監査クライアントにアサインをされていたこともあり、何となく海外に興味を持ち始め、また、「海外で生活をするのは楽しそうだな」と言うぐらいの気持ちで、最初は駐在への応募を決めました。
そのため、海外駐在に行く事が決まったタイミングでは、監査以外の業務は実施するとは聞いていたものの、実際に海外でどのような業務をするのか、語学力以外にどのようなスキルが求められているのかも、分かっていない状態でした。
ただ、せっかく行くからには、
「現地でしか出来ない経験をして、何かをつかみ取って帰ってくる!」という強い想いだけは、持っていました。

(よく、犬の散歩をしに来ていました)
海外駐在時の経験
赴任~現地での生活に慣れるまで
まずは、現地に赴任してすぐの話をさせてもらいます。
駐在生活において最も大変だったと思うのが、赴任後の半年間です。
当時マニラへ赴任し、カルチャーギャップと言語の問題や現地での生活に慣れる事に、非常に苦労しました。
私は、32歳の若さで妻と二人で赴任をしました。
二人とも海外旅行はしたことがあるものの、海外で生活をするのが初めてだったため、「自分たちを海外で生活するためにアジャストする」というのが、本当に大変でした。
私が住んでいたエリアはマニラのマカティと呼ばれるオフィス街で、日本で言うと丸の内に住んでいるようなイメージです。
巨大なショッピングモールもあり、日本食材を扱っているお店も周りにありましたが、それでも生活の利便性や衛生面などに不便さを感じていました。(これは、今なら分かりますが「日本が便利すぎ、衛生的すぎ」に尽きると思います)
また、赴任当時は英語を全然話せる状態では無かったので、公用語として英語が使えるフィリピンですら、スムーズに生活ができるようになるまで数カ月の時間を要しました。
業務面では、上記のとおりで英語に慣れていない状況のため、GTフィリピンのメンバーとの意思疎通がうまくいくワケもなく、一つひとつ何かをするに当たってスムーズに進まず、なかなかチームメンバーから信頼を得ることができていないと感じていました。
さらに、当時は監査業務しか経験していなかったため、クライアントから監査以外の相談をされた際や、実際に監査以外の業務対応をする際の勘所を掴むまで時間を要し、打ちのめされる場面が多かったことも覚えています。
それでも、楽しいと思いながら毎日の業務を行っていました。
自身がJ1として監査法人に入社した時のような感じで、日々分からない事がたくさん出てきて、それを毎日乗り越えていくことで、自分自身が成長しているのを感じられていたからです。赴任当初の高揚感も相まって、乗り越えられたのかなと思います。
以降は、
6年の駐在を大きく3つのフェーズに分けて、どのように成長曲線を描けたかをお話ししていこうと思います。
赴任からの2年間
まず前提として、私が主に現地で実施していた業務を説明します。
現地での担当業務は、GTフィリピンのジャパンデスクとして、日系クライアントの全般的な対応を実施します。そのため、対応する業務は監査だけでなく、税務・アドバイザリー及びアウトソーシングと、会計税務に関連するようなモノは殆どカバーする事になります。
ただ、関与の仕方を監査チームで例えると、監査責任者であるパートナーの業務が一番近いです。自分で手を動かして業務を進めていくと言うよりは、GTフィリピンの専門チームと一緒に成果物を作り、そこに日本人専門家として日系クライアントが求めているエッセンスを入れていき、最終的なゴールへ向かっていくイメージです。
この辺りは、後述となる「クライアントから何を期待されていたのか」の中で細かく説明します。
赴任当初からの2年間は、
- とにかく、現地の会計制度・税制度、その他法規制の知識をつけ、
- 同時に、ネットワーキングとしてフィリピンにおける日本人社会に溶け込んでいき、
- GTフィリピンのメンバーとの関係構築のため、コミュニケーションをたくさん取る
ということをしてきました。
「私がどんな人か」を知ってもらうと同時に、フィリピン人と一緒に仕事をスムーズに進めるためにはどうするのか良いのかを知るための期間で、とにかく色々な事を吸収した2年間でした。
赴任2年後~4年後
ちょうど赴任して2年が経とうとする頃に前任の駐在員が帰任し、私がGTフィリピンのジャパンデスクの責任者となりました。
この時点では、現地に対する理解もある程度進んできており、これまで学んできたことを使って、
- どのようにジャパンデスクを大きくしていくのが良いか?
- どのように自分らしさを出していくことで現地日系社会へもっと溶け込んでいけるか?
ということを考え始めている所でした。
そのため、この期間はひたすらChallengeしてTrial and Errorを繰り返す期間でした。
この時期で、答えが無いモノに自身で仮説を立てて実行し、その反省を踏まえて次に進むことの重要さを身に付けました。
これは、今の私にとっても大きな財産となっています。
現在の目まぐるしく色々な事が変わっていく時代においては、正解のない問題が非常に多く、そのような問題に直面した際にどう動いていくのか?それを考えられるようになったのは、間違いなく駐在時の経験があるからだと考えています。
赴任4年後~帰任まで
5年目以降は集大成として、
これまでの経験を総動員し、どのように後任駐在員へ引き継ぎを行うのか?そして、フィリピンへ恩返しをしていく期間でもありました。
当初は5年で帰任する予定でしたが、5年目の途中で新型コロナによるパンデミックとなり、マニラは完全なロックダウン状態となりました。
仕事ができる状態じゃなくなったため、当初思い描いていたことは半分ほどしか実現できませんでしたが、ロックダウンを経験できることもそうそう無いかと思うので、今では貴重な経験ができたと思っています。
総括
総括すると、海外駐在経験としてベストな期間は4年だと思います。
現地採用として現地に居続けるのであれば別ですが、任期を全うしたら帰任する駐在であれば、個人的には成長をかなり感じていた4年間をオススメします。
人にもよるかとは思いますが、5年以上海外で生活をしていると、日本へ帰国した後で、今度は日本社会に自分の体を馴染ませることに、とても苦労します(笑)
フィリピンでの業務
日本人駐在員が現地で求められること
日本人の専門家として現地で求められることは、
一言で言えば『日本人だからこそできること』です。
私も赴任当初は悩んでいました。
日本の方を向いて仕事をするべきなのか、現地の方を向いて仕事をするべきなのか…。
しかし、駐在関係でお世話になっている方から頂いた「目の前にいるクライアントだよ!」というアドバイス一言で、スッキリ整理をすることができました。
現地に進出している日系企業のために自身の知識やスキルをかき集めて、少しでも日本社会に貢献する!と言うことが、最も大きな視点で見た際に日本人駐在員に求められている事じゃないかと、私は思います。
特に、海外に進出している日系企業の日本人駐在員が求めているのは、文化慣習の違う異国の地で「日本式のサービスを日本人の専門家から受けたい」という非常にシンプルなもので、実はそんなに特殊ではありません。
私が赴任時に生活面で経験した『日本人だからこそ感じた不自由さ』を、同じようにビジネスで感じている日本人も数多くいるため、日本で当たり前にしていたことを当たり前に提供することだけでも、大きな価値となります。
実際、私が赴任していた6年間で、GTフィリピンの日系クライアント数は80社から300社まで増えましたが、「日本であれば当たり前のことを当たり前にし続ける」事をひたすら繰り返したことと、そのために必要な知識を収集し続けたことに尽きます。
「営業活動を行う」と聞くと、たいそうな事をしなければならないと思われるかもしれませんが、私たちのような専門家の場合、「しっかりとした知識を身に着け、クライアントからの信頼を勝ち取り、クライアントのためになると自分が心の底から思っている提案をする」という、意外とシンプルなことで新規業務を獲得できます。
日本国内でも数万人しかいない日本の会計士なので、フィリピン1カ国だけの事を考えると数人しか同じ立場の人はいません。そんな中で、自分らしさを発揮しつつ、本当にクライアントに寄り添った専門性を発揮できます。
そのため、心配する必要はありません。
「特殊な何かをしなければならない!」といった不安に陥ることなく、ぜひ駐在の世界に飛び込んでください!

フィリピン日本人商工会議所と提携して実施したセミナーです。年に1回、夏に新しく赴任した駐在員向けにセミナーを実施していました。
駐在で伸びたと感じているスキル
駐在中に伸びたスキルは色々とありますが、その中でも代表的な物を紹介させてもらいます。
英語力
最初に書いたとおり、私はあまり英語ができない状態で駐在に出ましたが、赴任後半年も経つ頃には、問題無くコミュニケーションが取れるようになっていました。
よく言われる話ですが、
英語を使用しないとコミュニケーションが取れない状態に身を置いたことで、
- 何としても自分の思いを伝える
- 相手が何を伝えたいのかを必死に理解しようとする
と言うことに集中するようになりました。
結局、大事なのは「英語を話している」ということをあまり意識するのではなく「コミュニケーションを取っている」のに過ぎないということです。そう思えるようになってからは、かなりラクになりました。
また、フィリピン人の特性として、非常にフレンドリーで優しい人が多いこともコミュニケーションを取りやすくしてくれた一因で、本当にフィリピンに赴任できて良かったと感じました。

GTフィリピンのCEO & Japan Desk担当パートナーとオフィスで撮影。GTフィリピンのメンバーは本当にフレンドリーで、彼らの笑顔に何度も救われました。
イレギュラーな事象への対応力
これは前述の『回答のない物事への対応力』と似ていますが、
私がよく、海外駐在の前後で一番変わったと思っているのが「常識の幅が広がった」ことです。
フィリピンで仕事をしていると、日本にいた頃は想像もできなかったようなトラブルや障害が発生し、思い通りに物事が進むことの方が、むしろ稀でした。
現地での経験が長くなってくると、想像していないような事はむしろ起きるものと考えられるようになり、大概の事では驚かなくなりました。
赴任した直後は「どうしてこんなことになってしまったのか」と考えることが多く、その場で立ち止まってしまいがちでしたが、次第に自分ではコントロールできないようなトラブルが起こったら、
- どうすれば軌道修正ができるのか?
- ここからスムーズに物事を進めるにはどうすれば良いのか?
ということを考えられるようになりました。
クライアントが慌てていたとしても、私が動じずに「何とかなりますよ、方法を考えましょう!」と言えるようになったことが、クライアントからの信頼を獲得できた要因ではないかと思います。
管理職に徹することができ、管理職として必要なことが見える
管理職としても、日本ではなかなかできない経験ができるため、管理職能者としてのスキルも相当伸ばせると感じました。
まず、Japan Deskの責任者として小さいながらも組織運営を経験できたことが挙げられます。
- どうすれば売り上げを増やせるのか?
- そのためには、どのようなマーケティング活動をするべきなのか?
こういったことを、あのタイミングで考えるチャンスが貰えたことは、かなりの財産になっています。
また、海外駐在では現地の制度を自分で調べきることが難しく、自分で全てのことを実施するのは不可能です。
そのため、何としてもGTフィリピンのメンバーに自身の味方になってもらう必要があります。
- どのように働きかければ、現地のGTメンバーが気持ちよく動いてくれるのか?
- 期待された成果物を作るために、どのように伝えれば正確に自分の考えが伝わるのか?
自分ができないからこそ、管理職に専念し、チームとしての成果を出すことに集中できる。
(正しくは、そうする事に追い込まれていました(笑))
この経験があるからこそ、今チームとして結果を出すために自分は何をするべきか、チームメンバーにどのように動いてもらうのかを考える基礎になったと感じています。
駐在に出たことで考えられた自身のキャリア
監査に限らず、会計税務に関わる多くの業務を経験することができるのは、駐在の魅力の一つです。
会計人材として、今後何に専門性を持ちたいのかを考えている人は多いと思いますが、一方で、経験したことが無い業務の中から一つに絞り切れると言う人は、あまりいないのではないかと思います。
この点、駐在中は必然的に色々な業務に触れる中で、自分が最も興味を持つ業務は何かを考え、その後のキャリアを考えることができました。そういった意味で、なかなか他ではできない経験を得られたのではないかと思います。
その結果として、私は「ジェネラルに様々な視点から会社の事を考えられるようになりたい」と考えるようになり、現在のポジションに就いています。
海外駐在経験のある日本人会計士は、まだまだ少数です。
希少な会計人材として、今後のキャリアの幅をかなり広げることができるのではと思います。
プライベート面での楽しみ
ここまでは仕事に関する話が中心でしたが、少しプライベートに関する話もさせてください。
フィリピンに住んでいる間、「フィリピンを遊びつくそう!」と思い、色々な所へ行ってきました。
その中でも、特に思い出に残っている2つの場所をご紹介します。
まずは海です!
日本と同じく島国のフィリピンは周りが海に囲まれており、大小様々な島から構成されている国です。
リゾート地はかなり多く、毎月のように国内旅行へ行っても回り切れないほどです。
様々なビーチに訪れましたが、個人的にはフィリピンで最も有名なリゾートの1つであるエルニド島の海が一番でした。こんなに透明感のある海は見たことが無く、海上のボートが宙に浮いているように見えるレベルです。

フィリピンに行く方は、ぜひとも訪れて欲しい場所です。
2つ目は山です!
実はフィリピンには、世界遺産に登録されているバナウェという地域があります。
私たちは他の観光も含めて2泊3日で訪問しましたが、1泊でもマニラから十分行ける場所にあります。

バナウェの棚田です。マニラから車で行ける立地で、非常にオススメの場所です。
さいごに
試験に合格し、これから会計のプロフェッショナルとして歩み始めるであろう皆さんに、ぜひ忘れないでいて欲しいことがあります。
様々な業務を行い、様々な経験をして、仕事が忙しくなってくると忘れがちになりますが、今皆さんが思っている「こんな会計士でありたい!将来はこんな会計士になりたい!」と言う姿を、常に意識してください。
今後、会計士が行う業務の幅は今までよりも広がってくると思います。会計士である自身にとってどんなキャリアを積んでいくのかは、目指している姿に近づくためのモノであるべきです。
そう言う私も、常に意識できているワケではありませんが、少なくとも海外駐在に出たことで、強く意識をするようになりました。これからも、会計士として自分が考えるキャリアを実現するために、色々な経験を積んでいきたいと思います。
私が太陽グラントソントングループに居続けるのは、私のそんなワガママをかなえ続けてくれる法人だからです。
自分でキャリアを考えるきっかけを与えてくれて、こうなりたい!と思った経験を積ませてくれています。皆さんも、太陽監査法人から会計士としての自身のキャリアを実現しませんか?